26/1/20 宮城県立古川黎明高等学校 「SS探究Ⅰ」

1.カリキュラム・授業の様子

 宮城県立古川黎明高等学校(以下、古川黎明高校)は、中学校併設型の高校です。文部科学省のSSH(スーパーサイエンスハイスクール)の指定を受けています。「『大崎耕土』からはじまる『気づき』を深め、知の創造に向かうイノベーション人材の育成」をテーマに社会で活躍するイノベーティブな人材の育成を目指しています。ちなみに「大崎耕土」とは、古川黎明高校がある大崎市にある世界農業遺産です。伝統的な水管理と持続可能な水田農業を特徴としています。

 古川黎明高校の探究は「SS探究」と呼ばれています。下図のモデルの通り、「気づき」「問い」「確かめ」を探究のループとして定義し、総合的な探究の時間だけでなく、各教科での問題解決の方法や見方・考え方をいかした探究を進めることを目指しています。また、中学校併設型であることを活かして、中学から在籍している生徒たちは「探究Jr.」に取り組み、高校生と交流・協働しながら探究の手法を身に付けます。高校1年のSS探究Ⅰでは、内部進学の生徒と高校から入学した生徒がいっしょになって「大崎耕土」をフィールドにした探究に取り組んでいます。

 古川黎明高校のSS探究・SSHの取り組みはこちら

 3年間のSS探究の流れについて紹介しいます。1年生の時点では内部進学の生徒と高校から入学した生徒の間で探究のスキル・経験のギャップがあるため、生徒をシャッフルした班を編成し、探究に必要なスキル(関心の言語化、情報の整理・関連付け、仮説形成など)を学びます。途中、班編成をどんどん組み替え、意見の対立を乗り越えたり、他者を説得する経験を仕組んでいます。地域の大崎耕土をベースとした共通体験やフィールドワークを行い、論理的な課題設定のトレーニングを行います。
 2年生から3年生の春にかけてグループの探究に取り組みます。自身の興味関心に基づき、4〜6人のグループで約1年強かけてテーマを深めます。最終的にはスライドまたはポスターに加と、4〜6枚程度の論文(各自)を作成します。
  3年次には6月から9月にかけて、その後のキャリアと結びつけた個人探究に取り組みます。進学や就職を見据え、単に「何になりたいか」ではなく、「その職業に就いた上で何をしたいのか」という卒業後の課題設定を含む探究です。

 内部進学の中学校だけでなく、近隣の小中学校との連携を図っているところも特徴です。生徒たちが探究の成果を小学生に伝えたり、古川黎明の探究のサイクルをいかした教材や発達段階に応じて小中高をカバーするルーブリックづくりにも取り組んでいます。

 この日は高校1年生のSS探究Ⅰの授業を拝見しました。1年間のスキル指導の集大成となる第4期のグループ編成で、独自のテーマの創出に取り組んでいました。これまで1年生は「大崎耕土」に関する共通体験や、地域課題に紐づけた課題設定演習を行ってきました。しかし、この日の授業は、地域という縛りから離れてもよい、自分たちの関心に基づいたテーマを作り始める最初の段階でした。生徒たちはシャッフルされた新しいチームの中で、お互いの問題意識を共有し、論理的な課題設定や仮説形成のトレーニングに取り組んでいました。翌週のプレゼンテーションはまだ構想発表の段階になりますが、発表を通して自分たちの立てた目的、見通しが適切かどうか点検する機会になります。
 「温泉水に生息する生き物について」「交通渋滞の解消法」「山菜の活用」などテーマはさまざま。ただし、単なる思いつきにならないように先行研究や事実情報を調べて根拠を明確にし、論拠を見極め、主張を作り上げるトゥールミンモデルに基づいた解説がありました。

根拠・論拠・主張を明確にする


 ここでの根拠を明確にするためにレフナビを活用しました。関連するキーワードから文献を探していましたが、JSTATGEやCiNiiなど学術的なサイトで検索する生徒たちの姿が目立ちます。これまで文献の調べ方等のスキル指導をしてきていることと、レフナビでは「調べる」メニューから、これらを含む代表的な検索サイト、データベースにジャンプできることをうまく活用しているようでした(今後、学校ごとにリストをカスタマイズできるようにする予定)。

 限られた時間の中でできるだけ多くの文献を読み、自分たちの根拠を組み立てるには、グループ内での役割分担も重要です。レフナビでは登録した情報をタグで共有したり、メモ機能にお互い書き込むことができるので、文献ベースの情報共有はレフナビを使い、プレゼンにまとめるところはロイロノートを使うといった使い分けも考えられていました。

相談しながら文献を収集する

 生徒たちは授業の後も先生のところに相談にきていました。自分たちの関心があるトピックを探究テーマにするにはどんな視点が大事か、どのような検証方法が考えられるのか、ロジックは明確かなどなど。翌週の発表に向けて、そしてその後の探究活動に向けてワクワク・もやもやしている様子。SSH校らしい科学的な探究へと踏み出す期待感にあふれていました。

2.インタビュー

 SS探究を担当されている千葉 美智雄先生(理科)に探究とレフナビの活用についてインタビューしてみました。

身近な地域から探究の芽を掘り起こす

  中高併設の一貫校として、地域と連携とした取り組みに力を入れています。「おおさき小中学生自由研究チャレンジ」や、児童館に高校生が出かけて開催する「高校生とふれあう科学実験」など、小学生から本校の探究や科学に関心をもってもらえる取り組みを展開しています。発達段階に応じた「階層的なルーブリック」の作成もその1つですが、高校生向けの指標を単に押し付けるのではなく、中学生や小学生でも理解できる言葉に噛み砕いた指標を整備しようとしています。これにより、地域全体で「目指すべき姿」を共有し、子供たちが小学校から高校まで一貫した教育的背景を持って成長できる環境づくりを目指しています。
 東北大学をはじめ、大学との連携にも力を入れていますが、探究のテーマは大学の高度な研究設備を使うというよりも、高校生が自らの目で観察し、身近なところにある取り残されている面白い事象を掘り起こすことが大事だと考えています。その気づきの土台として大﨑耕土を舞台とした探究があります。小学生から学んでいる地域から新たな気づきがある、見過ごされてきた面白いものを高校生が掘り起こし新しい説明を加えるプロセスこそが、探究の醍醐味だと思います。1年生の最初の探究から、完璧にできることを求めていません。 むしろ「うまく表現できなかった」「あまりうまくいかなかった」という手触りのある失敗や消化不良感をあえて残すことを意図しています。「もっと深めたい」という不完全燃焼の思いが、2年生以降の本格的な探究に向かう動機付けになります。

生徒の思考を可視化するために

 レフナビに蓄積されるデータには、生徒がどのような文献を収集・登録し、どのようなメモを書き込んでいるかを見とることができます。「生徒の頭の中がどう動いているか」を知るための重要な材料になります。これまでもGoogleスライドに文献情報や教員からのアドバイスを貼り付けるといった工夫をしてきましたが、レフナビはメモによる情報共有を一元的に見られるところに期待しています(メモを一覧表示・検索する機能は他校からもリクエストが出ていますので実装方法を検討中)。生徒が教員も知らないような良い論文をキーワードを工夫して見つけてくることがあり、それを共有リストに加えていくプロセスは教員にとっても「お、よく見つけたね」という喜びに繋がっています。

情報収集を指導するタイミングを共有したい

 生徒たちが文献調査をする際、教員が良かれと思って10本とか大量の論文を一度に与えることは、生徒にとってプレッシャーにもなってしまいます。高校生は部活動や他の学習がある日常があり、その中で探究を継続させるためには、適切なタイミングで適切な量の文献に出会わせるといった、教員による「伴走」と「マネジメント」が不可欠だと思います。ただ、こういったタイミングの見極めや、どこにヒントになる文献があるかといった知見は、教員の経験値に左右されやすいところです。特定のリーダー的な教員だけでなく、経験の浅い教員も適切に指導できる仕組みを構築しようとしています。レフナビでは教員だけのグループをつくることもできるので、教員間で文献を共有しておいて、経験豊富な教員が「この班にはこのタイミングでこの資料を」といった作戦会議を行い、それを担当教員にフィードバックしてくことで、学校全体の指導力の底上げを目指しています。

レフナビの説明も千葉先生がつくった共通教材を担当教員が提示
26/1/20 宮城県立古川黎明高等学校 「SS探究Ⅰ」
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